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熊本地方裁判所 昭和44年(行ウ)1号 判決 1972年9月28日

原告 堤貞女 ほか六名

被告 熊本税務署長 ほか一名

訴訟代理人 小沢義彦 ほか五名

主文

被告熊本税務署長が昭和四二年三月三日付で、被告熊本国税局長が同年六月五日付でなした原告らに対する各納付通知処分は、いずれもこれを取り消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

原告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告ら指定代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1、原告らは、昭和二六年三月一日資本金三〇〇万円で設立され、のち、増資されて資本金六〇〇万円となつたが、営業不振のため昭和三五年四月三〇日解散した訴外株式会社堤歯車製作所(以下訴外会社という。)の株主として名を連ねていたところ、被告税務署長は、訴外会社が清算中にその所有にかかる土地を金七、二五六万九、八七五円で他に売却し、清算所得金六、二五六万九、八七五円を得たにもかかわらず、これに対する

法人税   金二、六九〇万五、〇一〇円

無申告加算税 金 二六九万〇、五〇〇円

を未納のまま、訴外会社の清算人たる原告裕三は、金六、二五六万九、八七五円を株主にその持株数に応じて分配し、また原告裕三を除くその余の原告らはいずれも株主として左記のとおり各分配を受けたと認定したうえ、昭和四二年三月三日原告らに対し、国税徴収法第三四条に定める第二次納税義務者として、左記金額を同年四月三日までに納付するよう各納付通知をした。

(氏名)  (分配を受けた金額)(納付すべき金額)

貞女 金二、六〇七万円       同上

厚士 金  七二九万九、六〇〇円  同上

達也 金  六二五万六、八〇〇円  同上

幸子 金  一〇四万二、八〇〇円  同上

順子 金  四八六万六、四〇〇円  同上

久美 金  二四三万三、二〇〇円  同上

(分配した金額)  (納付すべき金額)

裕三 金六、二五六万八、〇〇〇円  同上

2、しかしながら、原告裕三が右代金を株主に分配した事実も、名義上の株主であるその余の原告らが右分配を受けた事実もないので、原告らは、右納付通知を不服として同年三月二二日被告税務署長に異議の申立てをしたが、同被告は同年四月一三日これを棄却したので更らに同年五月九日被告国税局長に審査請求をした。

3、この間に被告税務署長から被告国税局長に本件徴収の引継が行なわれ、同年四月二四日付で原告らにその旨の各通知があつたが、被告国税局長は、同年六月五日付をもつて、前記分配金額を金六、八五六万九、八七五円と認定替えしたうえ、その差額として、更に左記金額を同年七月五日まで納付するよう各原告に対しそれぞれ納付通知があつた。

(氏名) (分配を受けた金額) (納付すべき金額)

貞女 金 二五〇万円       同上

厚士 金  七〇万円       同上

達也 金  六〇万円       同上

幸子 金  一〇万円       同上

順子 金  四六万六、六六六円  同上

久美 金  二三万三、三三三円  同上

(分配した金額) (納付すべき金額)

裕三 金 六〇〇万一、八七五円

4、そこで原告らは、同年七月四日右納付通知についても被告国税局長に異議の申立てをしたが、同被告は、昭和四三年一一月一日、右異議申立てを決定で、前記審査請求を裁決で同時に棄却し、原告らは同月一六日右通知を受けた。

5、しかしながら、前述したとおり、金六、二五六万九、八七五円にせよ金六、八五六万九、八七五円にせよ、原告裕三はこのような金額を分配したことも、またその余の原告らは前示のような分配を受けたこともない。

したがつて、被告らの認定は全く誤つており、被告らの原告らに対する前記各納付通知処分はいずれも違法であるから、その取消を求める。

二、請求原因に対する認否

原告らが訴外会社の名義だけの株主であること、原告裕三が本件代金を株主に分配した事実もその他の原告らが右分配を受けた事実もないとの点を除き全部認める。

三、被告らの主張

1、訴外会社は、原告貞女、同達也、同裕三、同厚士、同幸子、訴外堤養之助(以下単に養之助という。)、同亡堤邦輔(原告久美の夫で原告順子の父。)の七人が発起人となり、右発起人共有にかかる別紙物件目録記載のイ、ニないしリの物件を現物出資して昭和二六年三月一日設立した資本金三〇〇万円の株式会社で、養之助を代表取締役とする同族会社(法人税法七条の二)であつて、昭和三四年三月二七日増資により資本金六〇〇万円となり、増資後の株主の持株数は、原告貞女五、〇〇〇株、原告裕三、同厚士、養之助各一、四〇〇株、原告達也一、二〇〇株、原告幸子二〇〇株、前記邦輔一、四〇〇株(邦輔昭和三五年死亡原告順子三分の二、原告久美三分の一各相続。)である。

なお訴外会社は、前記現物出資されたチ、リの物件を別紙物件目録記載のロ、ハの物件(以上同目録記載の物件については単にイないしリの物件という。)と交換し、イないしトの物件を所有していた。

2、ところが訴外会社はその後業績不振のため昭和三五年四月三〇日解散し、原告裕三を代表清算人に選任し、清算人原告裕三は、昭和四一年四月九日、訴外会社所有にかかるイないしホの土地(同地上に現存する建物を含む。以下本件不動産という。)を、実測で増加する坪数の代金請求権を留保し、金七、二五六万九、八七五円で訴外熊本木材株式会社に売却し、その代金を原告貞女、同厚士、同幸子、同達也、同順子、同久美、同裕三および養之助にそれぞれ持株数に応じて分配したうえ、原告らおよび養之助は、同人らが共同経営していた訴外堤鉱業所(今富炭鉱、堀之迫炭鉱の総称。)の共同債務の弁済として、中小企業金融公庫に対し同年四月九日金三二五万円、同月一八日金四、一二五万一、七八八円を、株式会社第一銀行に対し同月一八日金二、八〇六万八、〇八七円を支払つた。

右清算人である原告裕三の訴外会社財産の売却、その代金の株主に対する分配行為が訴外会社の清算行為であることは明らかであるから、被告税務署長は、前記売却代金七、二五六万九、八七五円から訴外会社の負債金四〇〇万円を控除した残金六、八五六万九、八七五円の残余財産が株主である原告らおよび養之助に分配されたものと認め、訴外会社に対し、昭和四二年二月一八日付をもつて清算所得に対する法人税額金二、六九〇万五、〇一〇円、無申告加算税二六九万〇、五〇〇円の賦課決定処分をしたが、訴外会社はその納期限である同年三月一八日を過ぎてもこれを納付せず、被告税務署長は、右滞納税金徴収のため訴外会社が熊本木材株式会社に対して有する前記売買残代金債権の差押等の滞納処分を執行したがなおその徴収すべき税額に不足している。

被告税務署長は、右のように訴外会社に対して滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められたので、国税徴収法第三四条の規定にもとづき、同年三月三日付をもつて、清算人原告裕三、残余財産の分配を受けたその余の原告らに対し原告ら主張どおりの第二次納税義務を課し、納付通知書によりこれを告知したものである。

3、被告国税局長は、昭和四二年四月二四日本件徴収の引継を受けたものであるが、被告税務署長がさきになした原告らに対する右第二次納税義務の限度額の計算に誤びゆうがあることを発見したので、同年六月五日付をもつて、原告らに対し、原告ら主張のとおりその納付限度額を増額し、これを納付通知書により告知したものである。

4、かりに、被告らの前記2の「訴外会社は、原告らおよび養之助に対し、その持株数に応じて残余財産を現実に分配し、それを原告らおよび養之助が中小企業金融公庫等に弁済したものである。」という主張が認められないとすれば、右弁済行為は、訴外会社が原告らおよび養之助の債務(平等の割合ただし原告順子、同久美は両名で一。)を代位して弁済したことになり、訴外会社がこのような代位弁済をしたのは、仮に契約上の原因があつたわけではなく、原告らおよび養之助が訴外会社の清算人、株主の地位にあつたことによるものといわねばならず、かつ、訴外会社が原告らおよび養之助に対し求債権を行使する意思を有しているとも、また原告らおよび養之助がその弁済をする意思があるとも倒底認め難いので、実質的には会社財産の社外流出が行なわれたことになり、国税徴収法第三四条所定の「分配」に該るというべきである。

四、被告らの主張に対する認否

1、被告らの主張1の事実は、訴外会社が被告ら主張の各日時にその主張の資本で設立増資され、増資後の株式の配分が被告ら主張のとおりとなつていて、その代表取締役が養之助であつたこと、および被告主張の七名がその発起人として名を連らね、右発起人ら共有にかかる熊本市春竹町所在の不動産が現物出資されたことになつていたことは認めるが、訴外会社の設立、増資、現物出資等すべて養之助が独断専行していたものであつて、原告らは本件課税が問題となつて右現物出資の事実を知つたものである。

2、同2の事実は、訴外会社が営業不振のため昭和三五年四月三〇日解散し、原告裕三が代表清算人として登記されていたこと、原告裕三が被告ら主張の日にその主張のような約定で本件不動産を訴外熊本木材株式会社に売却し、その代金が被告ら主張のとおり被告主張の者らに対する債務(それが原告らおよび養之助の共同債務である点はのぞく。)の弁済に充てられたこと、被告税務署長が訴外会社に対しその主張の日付でもつてその主張のような課税処分をしたうえその主張どおりの滞納処分をし、ついで原告らに対し本件課税処分をしたことは認めるが、原告裕三は代表清算人として選任された事実がないのに養之助がその旨の登記を勝手にしたものであり、原告裕三が本件不動産の売却代金を原告らおよび養之助に対し持株数に応じて分配したとの点は否認する。

原告裕三が本件不動産を売却したのは以下のような事情によるものであり、その代金を株主に対し分配するなどありえないことである。

すなわち、本件不動産については、いずれも養之助を債務者として次のとおりの抵当権が設定されていた。

(一)、中小企業金融公庫のため、原告順子、同久美をのぞく原告らと養之助共有にかかる鉱業権を共同担保として、

(1) 、昭和三六年九月一三日(設定登記同月一四日)金三、〇〇〇万円

(2) 、昭和三七年一一月一四日(設定登記同月二八日)金二、〇〇〇万円

(3) 、昭和三八年四月四日(設定登記同月二四日)金二、〇〇〇万円の各抵当権。

(二)、株式会社第一銀行のため、

(1) 、養之助所有の熊本市出水町長溝字上の園所在宅地約四六〇坪

(2) 、養之助所有の同市水前寺本町所在宅地約一五一坪

(3) 、原告貞女所有の武蔵野市境南町所在宅地約四八九坪

(4) 、右各土地上の建物

を共同担保として、昭和三九年三月一日(設定登記同年四月一六日)極度額金七、〇〇〇万円の根抵当権。

そして、本件不動産売却時の前記各抵当権による被担保債権額は、中小企業金融公庫の分は、養之助の一部弁済、共同担保の鉱業権処分代金による弁済等もあつて、金四、四五〇万一、七八八円となつており、また株式会社第一銀行の分は金五、七〇八万二、六五〇円となつていた。

ところが原告裕三は、右各抵当権者から、抵当権実行による競売よりは任意にこれを売却してその売却代金を債務の弁済に充当した方が、金額の点で原告らにもまた抵当権者らにも有利であるから、任意売却処分をしてはどうかという勧告を受けたので、これに従つて本件不動産を売却し、その売却代金をもつて、前示中小企業金融公庫分全額と株式会社第一銀行分のうち金二、八〇六万八、〇八七円の支払に充てたものであるから、原告裕三が右売却代金を原告らおよび養之助に対しその持株数に応じて現実に分配するなどありえないことである。

なお株式会社第一銀行に対する残債務は、前記共同担保の養之助所有にかかる(1) 、(2) の物件を売却して残債務の支払に充てた結果元利合計金二、〇〇〇万円足らずとなつている。

3、同3の事実は認める。

4、同4の事実は否認する。

五、原告らの移送の申立て

原告らが本件訴訟を熊本地方裁判所に提起したのは、同庁が処分行政庁である被告らの土地管轄を有するためにほかならないが、国税通則法第七七条第一項によれば、処分時の納税地と現在の納税地が異なる場合には、右処分は現在の納税地を所轄する税務署長がしたものとみなすことになつているところ、第二次納税義務者の納税地はその住居地と解するのが相当であるから、本件において被告らのなした処分は、原告貞女、同厚士、同達也、同幸子については武蔵野税務署長の、原告裕三については杉並税務署長の各処分とみなされ、本件行政処分庁は右二税務署長と原告順子、同久美関係の被告税務署長となり、その管轄裁判所は東京地方裁判所と熊本地方裁判所となるが、原告ら大多数の住居が東京都下にあり、かつ予定される人証である原告裕三、養之助の住所も東京都およびその近郊に存することからすると、本件は東京地方裁判所において審理するのが相当であるから、同裁判所への移送を求める。

六、移送の申立に対する被告らの答弁

本件について東京地方裁判所に管轄が生ずるいわれはないし、同裁判所への移送の申立には同意しない。

第三、証拠<省略>

理由

一、訴外会社は昭和二六年三月一日資本金三〇〇万円で設立され、昭和三四年三月二七日増資されて資本金六〇〇万円となつたが、昭和三五年四月三〇日業績不振のため解散したものであり、右増資後の株式の配分が原告貞女五、〇〇〇株、原告裕三、同厚士、養之助各一、四〇〇株、原告達也一、二〇〇株、原告幸子二〇〇株、邦輔一、四〇〇株(邦輔は昭和三五年死亡し、原告順子がその三分の二を原告久美がその三分の一を各相続した。)であつたこと。原告裕三(訴外会社の清算人として売却したかどうかはしばらく措く。)が昭和四一年四月九日本件不動産を、実測で増加する坪数の代金請求権を保留し、金七、二五六万九、八七五円で訴外熊本木材株式会社に売却したこと。被告らが、本件不動産は訴外会社の所有にかかるものであり、これを原告裕三が訴外会社の清算人として前記のように売却したものであるから、その代金から訴外会社の債務金四〇〇万円を控除した残金が訴外会社の清算所得となるところ、原告裕三は右清算所得に対する法人税を納付しないで残余財産を前記株主に対しその持株数に応じて分配したが、訴外会社に対して右法人税について滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足するとして、国税徴収法第三四条に基づき、原告らに対し、原告ら主張どおりの本件各課税処分をしたこと。以上の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、原告裕三が本件不動産を売却するに至つた事情について考えるに、<証拠省略>を総合すると以下の事実を認めることができる。

1、原告貞女の亡夫であり、原告裕三、同厚士、同達也、同幸子、養之助、亡邦輔(昭和三五年八月二二日死亡、原告順子は子として三分の二、原告久美は配偶者として三分の一各相続)の亡父である堤次吉は、通称今富炭鉱、堀之迫炭鉱の鉱業権を有し、堤鉱業所の名で今富炭鉱を開発して石炭の採掘販売業を営むとともに、イ、ニないしリの物件を所有し、トの工場で堤鉱業所熊本工業の名のもとに歯車の製作をしていたものであるが、右次吉は昭和二四年一二月六日死亡するに至り、前記共同相続人らがその法定相続分に応じてその遺産を相続した。

2、そして、右次吉死亡当時、養之助二八才、原告裕三二五才、亡邦輔二二才、原告厚士一九才、原告幸子一六才、原告達也一三才といずれも若年であつたため、亡次吉が営んでいた前記事業は、その跡を継いで長兄の養之助がその経営に当り、堤鉱業所の名で今富炭鉱についで昭和三五年ごろ堀之追炭鉱を開発し、他方歯車の製作をしていた堤鉱業所熊本工場は、昭和二六年三月一日株式会社組織に改め、資本金三〇〇万円(すべて養之助、亡邦輔、原告貞女、同裕三、同厚士、同幸子、同達也が共同相続したイ、ニないしリの土地建物の現物出資をもつてこれにあてる。)、株主右現物出資者、会社役員殆んど大部分右現物出資者とする訴外会社を設立した。

3、ところが訴外会社は、業績があがらぬことから昭和三四年四月三〇日解散し、その代表清算人に原告裕三を選任した(同原告は遅くとも昭和三六年ごろは自己が右清算人であることを知つていた。)が、原告裕三は訴外会社の取締役に名を連ねてはいたが訴外会社の経理内容を全く知らず、その清算事務に現実に従事したこともなく、かつ、訴外会社は組織は会社組織をとつているとはいえいわゆる原告貞女ら堤一家の会社であり、前記現物出資した物件についても、訴外会社名義とはなつていたいどころか現物出資後の昭和二八年九月二四日受付をもつて原告貞女ら同共相続人のため相続登記がなされていて、訴外会社の財産であることの意識が薄かつたこともあつてか、養之助、原告貞女、同裕三、同厚士、同幸子、同達也の六名は、さきに訴外会社に現物出資していたイ、ニないしトの物件と昭和三五年八月一〇日受付同月五日交換を原因に所有権を取得したロ、ハの物件(右物件がどの物件と交換されたものかこれを明らかにする証拠はなく、右交換により所有権を取得した者が訴外会社であると断定するのはいささか困難である。)の各自己の持分について、いずれも養之助を債務者、右原告らを連帯保証人とする次の債務を担保するため抵当権を設定した。

(一)、中小企業金融公庫のため

(1) 、昭和三六年九月一三日(設定登記同月二四日)金三、〇〇〇万円

(2) 、昭和三七年一一月一四日(設定登記同月二八日)金二、〇〇〇万円

(3) 、昭和三八年四月四日(設定登記同月二四日)金二、〇〇〇万円

共同担保

(1) 、前記今富炭鉱、堀之迫炭鉱の鉱業権(ただし(1) の債務についてのみ、なお右各鉱業権者は養之助および右担保提供者たる原告ら各六分の一の待分。)

(2) 、養之助所有の熊本市出水町長溝字上の園三四番宅地七六四、四〇m2

(3) 、養之助所有の同所三三番宅地七五三、七一m2

(4) 、養之助所有の同市水前寺本町一七九番宅地一五一坪四合四勺

(二)、株式会社第一銀行のため

(1) 、右(一)の(2) 、(3) の宅地

(2) 、原告貞女所有の武蔵野市境南町一丁目一〇九番四宅地七六三、六三m2

(3) 、同原告所有の同所一〇九番五宅地八一三、二二m2

(4) 、同原告所有の同所一〇〇番三一宅地三九、六六m2

(5) 、同原告所有の同所一〇九番地四 家屋番号三〇番 木造瓦葺二階建居宅 床面積一階一七八、五一m2  二階六六、一一m2

を共同揖保として、昭和三九年三月一日(設定登記同年四月一六日受付、ただし(5) の物件については同年一二月二五日設定契約、昭和四〇年二月九日受付。)極度額金七、〇〇〇万円。

4、ところで、養之助は右借入金を主に堀之迫炭鉱の開発資金に投入してきていたところ、昭和四〇年三月石炭業界の不況から堤鉱業所を閉鎖するのやむなきに至つたのであるが、同鉱業所は、その鉱業権者が養之助、原告貞女、同裕三、同厚士、同幸子、同達也(持分各六分の一づつ、亡邦輔は昭和三五年八月二二日死亡により脱退)のいわゆる堤一家の事業ではあるが、右共同鉱業権者は、事業について何等の定めもせず、その経営を養之助に委ね亡父の代から同鉱業所で働らいていた原告裕三も同鉱業所の技術関係を担当し毎月一定額の給与を受けるに過ぎず、養之助が鉱主勘定の中から毎月一定額を原告貞女、同幸子、同達也らに学費生活費として送金し続けていたとはいえ、昭和二五年の朝鮮動乱以来数年に亘り相当の利益があがつたにもかかわらず、利益の分配など全くしないで、養之助が独断で、右利益金でもつて亡父次吉の債務の支払、自己名義での不動産の購入などに充てていたものであつて、前記養之助名義の借受金については、養之助と前記共同鉱業権者ら間の内部関係においても、養之助と右共同鉱業権者らとの共同債務ではなく、養之助の単独債務であること。

5、そして、堤鉱業所閉鎖後、当初養之助がその清算に当つていたが、同人がこれを顧みないため前記債権者らから苦情がで、昭和四〇年八月ごろから原告裕三がその清算に当つていたところ、前記両債権者から、抵当権実行の用意があるが、抵当権実行よりも任意売却による方が債権者、債務者とも有利であるから本件不動産を売却して債務の弁済に充ててはどうかとすすめられ、かつ債権者の株式会社第一銀行からはその買受人の斡旋も受けたので、原告裕三としては、永年取引のあつた同銀行にできるだけ迷惑をかけないようにとの配慮から、同銀行の意にそうことについて養之助、原告らの同意をえ、昭和四一年四月九日、訴外熊本木材株式会社との間に、本件不動産を実測で増加する坪数の代金請求権を留保し金七、二五六万九、八七五円で売り渡す旨の売買契約を締結し、同日手付金三二五万円を受領したが約旨に従つてこれを直ちに前記中小企業金融公庫に対する養之助の債務の内入弁済に充て、ついで同月一八日株式会社第一銀行熊本支店において残代金の支払を受けたのであるが、その支払方法は、残代金のうち前記養之助の中小企業金融公庫に対する残債務金四、一二五万一、七八八円分はその場に同席した同公庫の係員に買主の熊本木材株式会社から直接支払われ、残代金二、八〇六万八、〇八七円は前記養之助の株式会社第一銀行に対する債務金三、七〇八万二、六五〇円の内入弁済として、同銀行が買主の熊本木材株式会社に対して有する債権を消滅せしめる方法によることについて三者合意し、ここに本件不動産の売却により前記養之助の中小企業金融公庫に対する債務の全額および株式会社第一銀行に対する債務の一部弁済を終えたものであるが、原告裕三は、本件不動産の売却に際し、それが訴外会社の財産の処分であり、清算行為に該るなどとの意識は全くなかつたこと。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する成立に争いのない<証拠省略>は前顕証拠と対比して容易に信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三、右認定の事実によると、訴外会社に現物出資した本件不動産(ただしロ、ハの物件をのぞく。)について、養之助および原告らが前記のように養之助の債務を担保するため抵当権を設定したことについては問題が存しはするが、原告裕三の本件不動産の売却は、前示抵当権者の抵当権の実行にも等しいものというべく、右売却をもつて訴外会社の清算行為と認めるのは困難であるばかりでなく、まして原告裕三がその売却代金を訴外会社の株主である養之助、原告らに現実に分配することなどありえないことであり、また現実に分配したと同様の効果があつたものとも認め難い。

そうだとすると、被告らの本件各課税処分は、爾余の点について判断するまでもなくいずれも違法処分として取消を免れない。

四、なお、原告らは、国税通則法第七七条第一項を根拠に、本件については東京地方裁判所にも管轄が存するものとして同裁判所への移送を求めるのであるが、元来第二次納税義務者の納税地は国税徴収法第三二条第一項の解釈上本来の納税者の納税地と解するのが相当であり(同条項に、税務署長が納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し納付通知書より告知すべく、この場合においては、その者の住所または居所の所在地を管轄する税務署長に対しその旨を通知しなければならない旨定めているが、これは官庁相互間の共助にも類するものというべく、これにより住所地の税務署長に第二次納税義務の徴収権限が移るのでも、またその委任がなされるものでもない。)。国税通則法第七七条第一項の規定は、「税務署長の処分後」に「納税地の異動があつた」場合の規定であつて本件には適用されたいものと解すべく、一般民訴における合意管轄、応訴管轄等の生じない本件においては、東京地方裁判所に管轄を生ずべきいわれはないので、原告らの本件移送の申立ては理由がない。

五、されば、原告の本訴請求はいずれも正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 美山和義 中村健 甲斐誠)

物件目録

イ 熊本市春竹町春竹六反田九二八番宅地四九四〇坪五九

ロ  同所        九二八番二宅地三六坪

ハ  同所        九二八番五宅地七〇四坪

ニ  同所        九三一番二宅地六坪

ホ  同所        九三二番二宅地八九坪

ヘ  同所        九五二番三宅地三〇坪

ト  同所        九二八番地家屋番号六九六番二の工場ほか建物

チ  同所        九五三番一宅地一〇五坪

リ  同所        九二八番六宅地二〇〇坪一七

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